あなたがこの記事を読まれているということは、これからピアノの発表会や合唱コンクールが迫ってきているのでしょうね。
ピアノを人前で弾くというのは本当に緊張するものです。緊張しないようにと思っても、いざ本番となると手の震えが止まらなかったり、指が思うように動かないという方はたくさんいらっしゃいます。
今回は、心理学の観点から「緊張しない方法」についてお話しすると同時に、今まで苦しんできたこれらの症状(手の震え・手の冷たさ)のメカニズムとその対処法をお伝えしていきます。
合唱コンクールでのピアノ伴奏やピアノ発表会を迎える方の少しでもお役に立てるように、少しでも気持ちが楽になるような記事になっています。
それではさっそく見ていきましょう!
目次
「緊張しない方法」はない?
まずはじめに緊張との向き合い方についてお話ししていきます。あなたは「緊張しない方法」を探してこの記事に辿り着いたと思いますが、厳密に言うと「緊張しない方法」というものは存在しません。
なぜなら、人は大きな舞台を前にすれば誰でも緊張するからです。明らかに緊張している人も、見た感じ緊張してないように見える人も、程度が違うだけで「緊張」しています。
どんなに一流のピアニストでも、どんなに一流のプロスポーツ選手でも緊張するもの。ましてや合唱コンクール・学校の式典などのピアノ伴奏やピアノ発表会などの慣れない場面であれば緊張しないわけにはいきません。
緊張は悪者ではなく、パフォーマンスを上げるために必要なもの
ただ、緊張は必ずしも「悪者」というわけではありません。あなたの体は、あなたのことを邪魔しようとして緊張しているのではなく、あなたに良かれと思って緊張しているのです。
例えば、家でゴロゴロしながら、いきなり大勢の人の前で間違えずにいい演奏しろと言われても無理ですよね。
つまり緊張するということは、これから高いパフォーマンスをしなければならないということをあなたの体が無意識に感じ取っている証拠。
科学的な観点で言えば、普段の心拍数から30未満の上昇であれば適度な緊張となりますが、30を超えるとパフォーマンスが下がる「過緊張」状態になると言われており、適度な緊張はパフォーマンスを上げるために必要なものなのです。
つまり、緊張をなくそうとするのではなく、緊張をプラスのエネルギーにうまく変える事が大切なのです。わかりやすく言うと、緊張とうまく付き合っていくということですね。※ここでは便宜上「緊張しない方法」としています。
では、「緊張しない方法」=「緊張とうまく付き合っていく方法」とはいったいどのようなことをすればよいのでしょうか?そのコツを今からお伝えしていきます。
緊張をほぐす方法でやってはいけないこと
緊張とうまく付き合っていくためには、まず「どんなことをやってはいけないか」を知ることが重要です。
緊張をほぐす方法として知られているあんなことやこんなことが実は緊張にとってよくないばかりか、より緊張させてしまうことだってあるのです。
それはいったいどんなことなのでしょうか?
自己流の誤った自己暗示
一番やってはいけないのが、自己流の誤った自己暗示。
自己暗示とは、「私は大丈夫」「私は緊張してない」などの言葉を自分に投げかけること。この方法を使っている方が多いのですが、何度も自己暗示を繰り返してもよくならないどころかそれがプレッシャーになることがあります。
慣れない呼吸法
呼吸法は効果があると言われていますが、慣れない呼吸法は禁物。
ゆっくりと深呼吸をすることで自律神経のバランスが整い、緊張がほぐれるのは確かですが、極度の緊張に対して無理に落ち着かせようとする逆にそれがストレスとなり、平常心を失ってしまいます。
緊張をほぐす方法が逆効果になってしまう理由
緊張を無理にほぐそうとするとなぜ逆効果になってしまうのでしょうか?
その理由は2つ。
- 緊張している事実を否定してしまっているから
- 逆に緊張に意識が向いてしまうから
一つずつ見ていきましょう。
緊張している事実を否定してしまっているから
「私は大丈夫」「私は緊張していない」この2つに共通していることは、緊張している事実を「認めていない」ということです。
緊張を意識的になくそう・抑えようとしても、経験からいってあまりうまくいかないことの方が多いのではないでしょうか?
それもそのはず、実は意識でコントロールできることは氷山の一角であって、氷山の見えない部分は無意識でコントロールされています。その領域は無意識の方が圧倒的に広く、無意識の方が意識よりも圧倒的に強いからです。
そのためにも、緊張してると感じたら、「私は緊張してるんだなあ」と抵抗せずに早々と緊張しているという事実を認めてあげましょう。そうすることで、不思議と緊張が幾分かおさまるようになります。
逆に緊張に意識が向いてしまうから
「私は大丈夫」「私は緊張していない」と自己暗示をかけても、意識ではなかなかコントロールできないというお話をしました。
そうやって「緊張しないようにしよう」と努力している間、あなたはどんなことを考えていますか?「緊張すること」について考えていますよね。
緊張をなくそう、対処しようとすればするほど結局は緊張に意識が向いてしまいます。というのも、人は意識し続けている方向にどんどん引っ張られていくという性質があるからです。
そのためにも緊張を抑えることに意識を向けるのではなく、ピアノを弾くのであれば楽しくピアノを弾いていることに意識を向け続けるなど、他のことに意識を向ければいいのです。
ただそうはいっても、緊張しているのになかなか他のことを意識するのは難しいと思います。その時にイメージの力が役に立ちます。
イメージトレーニングが効果があるとよく言われますが、ここでもポイントがあります。
緊張しない方法1:イメージトレーニング
ではどのようにイメージをすればよいのでしょうか?この時に重要なポイントは、カメラアングルとディテール。
イメージは自分をビデオカメラで撮ってるイメージで!
イメージを使う時に失敗しがちなのが、自分自身の視界、すなわちピアノ演奏者自身の目線でイメージしてしまう場合です。
自分目線でイメージしてしまうと、こと緊張に関しては「緊張している自分」から離れられないので、緊張を抑えようとイメージに無理が出てしまったり、なかなかいいイメージが出てこないことが多いのです。
そのためにも、イメージは第三者の視点から行うようにしましょう。具体的には、第三者が自分をビデオカメラで撮っている様子をイメージします。
ビデオカメラに映っている自分自身イメージは、事実そのままをイメージする必要はなく、うまくいった・成功した演奏をしている姿をイメージしてみましょう。
そして自分自身のイメージに向かって次のように質問してみます。
「もしピアノ伴奏・発表会がうまくいったとしたら、〇〇さん(ピアノ演奏者)はどのようにピアノを弾いていましたか?」
その時に見るポイントは、
- 指使いや体の動き、姿勢、表情などの見えるもの
- ピアノの音や拍手・歓声などの聴こえるもの
他にも暖かい黄色っぽい雰囲気など、全体の色やカメラの明るさ、目線の高さやピントなど、自分にとっていい映り方がどんなものなのかをイメージして、そのディティールを詳しく挙げていきます。
そうすることで、緊張している自分から離れ、いいイメージが自然にできます。
いいイメージができたら、カメラアングルを自分に戻してそれを今の自分に取り込みます。いいイメージを取り込んだらどんな感じがするでしょうか?出てくる感覚や感情を味わってみるとよりイメージの効果を得ることができます。
緊張しない方法2:アンカーリング
いいイメージができたら、それを本番の演奏でも再現できるようにしていきます。
それが「アンカーリング」。アンカーとは引き金のことで、いい感情やいい感覚を引き出すためのスイッチとなるポーズや合言葉を設定することを「アンカーリング」と言います。
アンカーリングで用いるポーズや合言葉には、視覚・聴覚・身体感覚のいずれかを用います。
- 触覚(ポーズ):しぐさ、ポーズ、身体の刺激、におい、手触り、痛みなど
- 聴覚(合言葉):言葉、口癖、音楽、特定の音、名言など
- 視覚(イメージ):キャラクター、シンボルマーク、写真、絵など
イチロー選手がバッターボックスで見せる独特の動作や、ラグビーの五郎丸選手が行うルーティンなどもこのアンカーリングの効果を利用しています。
ここではあまり難しいことは考えずに、ピアノ演奏者自身が思い入れのあるものを選びます。
普段よく身につけていてあると落ち着くものや、好きな音楽・好きな言葉、あるいは大好きなペットや家族・友達が写っている写真など、演奏の場や本番直前まで再現できるものを選びます。
アンカーリングが効果を発揮するのは、思い入れが強く、そして長い間見続けたり使い続けているものに限ります。普段の練習の中で落ち着けるスイッチとなるものを一つ見つけてみましょう。
緊張しない方法3:体を動かす
緊張しない方法の3つ目は、体を動かす方法です。
これは主に三種類あって、
- 肩をギューっと上げて、ストンと落とす
- 目をギュッとつぶって元に戻す
- 口を前に突き出して元に戻す
いずれも、「体に力を入れてから、一気に力を抜く」というやり方をします。これは「筋弛緩法」といって、筋肉を一度収縮させてから弛緩(ゆるめる)することで、筋肉の緊張をゆるめてリラクゼーションを促す方法です。
この動作は、一度わざと体を緊張させることで緊張を認めて受け入れるので逆効果になることは少なく、リラックスさせるアルファ波を増やすなど、医学的にも効果が高い方法です。
これらの方法は8:2の割合で行ってください。つまり、
- 肩をギューっと上げる(8秒)、ストンと落とす(2秒)
- 目をギュッとつぶる(8秒)、元に戻す(2秒)
- 口を前に突き出す(8秒)、元に戻す(2秒)
のようにして、緊張をじっくり感じ取ってから一気にゆるめるようにしましょう。他にもつま先立ち、足首を回す、ふくらはぎをマッサージするなど、足の運動も寒い時期には効果的です。
緊張しない方法4:とにかく練習
緊張しない方法の4つ目は、目新しさゼロですが「練習」です。
ピアノ伴奏であれば自分の練習がなかなかできないし、ピアノ発表会となるといくら練習しても不安が取れないこともありますが、やはり体を使って覚えたことが一番緊張に対して効果があると思っています。
その理由は二つ。
- 本番で余計なことを考えなくて済む
- 「これだけやった!」という事実が自信を生む
練習は技術的なことだけでなくメンタルにもいい影響を与えます。それでは、本番までに練習するときのポイントをいくつか挙げてみます。
- 本番までに人前で練習しておく
- 自分の演奏を録音し、客観的な視点で聴いてみる
- 途中で詰まっても最後まで弾き切る練習⇒本番対策
- 途中からでも弾けるようにする練習⇒アクシデント対策
- 練習でわざとテンポを速めて弾いてみる⇒一度失敗をしてみる練習
これまでの努力を無駄にしないためにも、様々な場面を想定して弾いてみたり、本番を想定した練習をすることが本番への自信につながります。時間の許す限りたくさん練習して本番に備えましょう。
緊張に対する心構え:7割できたらOK!
緊張の最大の敵は、大きすぎる目標設定。ピアノ伴奏やピアノ発表会は間違えずに弾くことが重要視されますが、そもそも緊張とはハードルを必要以上に上げることによって起こります。
自分の力以上のものを出そうとして、突然譜面が飛んでしまったり、焦ってしまったりするよりかは、ある程度のびのびとピアノを弾いた方が緊張せず楽だし、いい演奏ができることが多いのです。
そのためにも、自分が思う7割ができたらOK!にして、自分自身のハードルを下げてあげましょう。そのかわり、自分が伴奏や演奏のリズムを作っているという気持ちで、楽しくリズムよくを心掛けましょう。
緊張に対する最大の対処法は「集中すること」。一流の人に起こるという「ゾーン」とまでいかなくても、没頭するくらい集中できれば、緊張を感じなくなります。
ハードルを下げて、自分の演奏に集中する。このことを意識することが緊張に対する最大の心構えになります。
緊張による手の震え・手の冷たさの対処法
最後は、緊張によって起こる、手の震えや手の冷たさの対処法をお伝えしていきます。これからお話しすることが緊張しない方法の新事実。それは自律神経にありました。
緊張とリラックスをつかさどる自律神経
自律神経とは、体の筋肉を動かす「体性神経」とは違い、内臓による消化・吸収などといった無意識に体を動かすときに働く神経です。
自律神経には二種類あり、主に緊張をつかさどる「交感神経」と主にリラックスをつかさどる「副交感神経」があり、これらは対となって自動車のアクセルとブレーキのような役割をします。
- 緊張は交感神経:アクセル
- リラックスは副交感神経:ブレーキ
「副交感神経」を働かせてリラックスさせましょうという話は聞いたことがあると思います。
実は副交感神経は二種類あった!
ただ、体の機能はそんな単純なものではなく、副交感神経については、二種類あるという説が有力になっています。
副交感神経は先ほどブレーキの役割をしているとお話ししましたが、そのブレーキにもゆったりと減速するマイルドブレーキと、急に止まろうとする急ブレーキに分けられます。
- 「急ブレーキ」の背側迷走神経
- 「マイルドブレーキ」の腹側迷走神経
なにやら見覚えのない難しい用語が出てきますが、覚える必要はありません。「迷走神経」とは副交感神経のことと思ってもらって結構です。それではこの二つはどういったものなのかを見ていきましょう。
急ブレーキを働かせる「背側迷走神経」というのは、主に消化吸収・睡眠といった生物の活動を停止させる役割を持つ副交感神経です。これは魚類・爬虫類といった古くからの生物が持っている原始的な機能です。
それに対して、マイルドブレーキを働かせる「腹側迷走神経」というのは、主に、人とつながることで安心や安らぎを産みだす役割を持つ副交感神経です。
これは群れをつくって共同生活を行う哺乳類のみが持つ神経で、進化していく中で一番新しくできた機能なのです。
手の震え・手の冷たさは副交感神経が原因だった!
このことと、手の震え・手の冷たさがどう関係するのかというと、これらの緊張時に発生する症状は、実は緊張を生み出す交感神経ではなく、副交感神経が過剰に働くことによって出てくる症状なのです。
ビックリしませんでしたか?リラックスに関係していると言われた副交感神経が、手の震え・手の冷たさの原因だったのです。
ではこれが二種類あるうちのどちらの副交感神経かというと、想像がつくかと思いますが、急ブレーキの背側迷走神経が働いているのです。
この急ブレーキの副交感神経は、(パソコンの)「シャットダウン」「フリーズ(凍りつき)」を起こす働きがあります。
そのメカニズムをお話しすると長くなるので割愛しますが、要は、交感神経により緊張が高まった後、副交感神経の急ブレーキが働くことによって体がフリーズを起こしてしまい、手の震えや手の冷たさを感じてしまうのです。
つまりまとめると、緊張には二種類あって、
- ①交感神経による緊張
- ②副交感神経による緊張
の二種類があります。そして②の副交感神経による緊張では、
- 体温が下がる・手が冷たい
- 体が固まる・指が思うように動かない
- フワフワした感じがする
といった「フリーズ」の症状が起こります。落ち着かせようと急ブレーキをかけた結果起きた症状なので、これを落ち着かせようとしても意味がないことがわかりますよね。
ではこの副交感神経のフリーズによる緊張をなくすためにどうすればいいのでしょうか。それは、もう一つの副交感神経の働きを優位にさせればいいのです。
- ①急ブレーキ・フリーズの副交感神経
- ②マイルドブレーキ・安心の副交感神経
緊張しない人=緊張とうまく付き合っている人は、この②の副交感神経がうまく使えているわけです。ですので、②のマイルドブレーキの副交感神経を使う方法をお伝えしていきます!
マイルドブレーキを活性化する方法!
このマイルドブレーキを活性化する副交感神経を活性化する方法、実は簡単に行うことができるんです。
その方法は、
- 「周りを見渡して、見えたもの・聴こえたものを心の中で言葉にする」
です。これは「タイトレーション」と呼ばれ、赤ちゃんが周りを確認して安心する「定位反応」という反応を利用したエクササイズです。赤ちゃんが周りを見ようとする動作は、実は不安を取り除き安心しようとしているのです。
このエクササイズのコツは、
- 自分の向きたい方向を向くこと
- 見たい・聴きたいと思ったものを選ぶこと
まず深呼吸をしてからゆっくりと首を回して、見えたもの・聴こえたものにしっかりと焦点を当てます。そして例えば椅子が見えたとしたら、「椅子が見えます」と心の中で言葉に出して、一呼吸おいてから、次のものを見るようにします。
自分一人でやるのではなく、親に協力してもらったり、子どもに教えてるのであれば、リラクゼーションの練習ということで本人と一緒に口に出しながらやってみてください。
手の震えや手の冷たさを感じているときは、視野が狭かったり・周りの見えるもの・聴こえるものに実感がないことがほとんどです。
ピアノを前にしたときに見えているもの、聴こえている音に意識を向ければ、自然と「今ここに」いることを意識することができ、フリーズが解けて体の温かさを感じることができます。
そしてこれは、本番のその時だけではなく、当日待っている間や、普段の生活の中でも行えます。周りを見渡して安心することが習慣化してくると、緊張した場面でも手の震えや手の冷たさを感じることが減り、本番に強くなります。
そして、コミュニケーションをつかさどる神経なので、コミュニケーション能力もアップします。ピアノ伴奏に役立てるとともにぜひ日常生活でも試してみてください。
緊張しない方法のまとめ
- 「緊張しない方法」は「緊張とうまく付き合う方法」。緊張はパフォーマンスを上げるために必要なもの。
- 緊張をほぐす方法でやってはいけないことは、緊張を意識で抑える努力をすること。
- やってはいけない理由は、緊張している事実を否定し、緊張に意識を向けてしまうから。
- 緊張しない方法は、イメージトレーニング・アンカーリング・体を動かす・練習する。
- 緊張に対する心構えは「7割でOK」。目標のハードルを下げることが心構えで大切なこと。
- 緊張による手の震え・手の冷たさは副交感神経が原因。
- 交感神経によるアクセルに急ブレーキをかけることでフリーズが起こってしまう。
- 手の震え・手の冷たさの対処法は、周りを見渡して安心を取り戻すようにする。
いかがだったでしょうか。緊張のことを知り、緊張を受け入れ、正しい方法を取ることで、適度な緊張感で本番に臨むことができるようになります。
「緊張しない方法」どれか一つでもいいので、やってみましょう。よいピアノ伴奏・ピアノ発表会となることを願っています。
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