
出典:https://www.asahi.com/worldcup
仕事の中で部下を育てていくためには、時には叱らなければならない時も出てきます。時代は変わり、頭ごなしに叱るということが難しくなった今、部下の叱り方には気を遣うことが多いのではないでしょうか。
さらには、部下といっても年上に当たる部下もいらっしゃいますし、女性に対しても気を遣う場面が出てくるでしょう。
今回は、これから上司になる方、もしくは長く上司を務めている方にも役立つ、人前で「やってはいけない下手な叱り方」と「上手な叱り方」の違いとそのポイントをお伝えしていきます。
もちろん仕事の内容によらない共通の「叱り方のキホン」となりますので、どんな方でもお役に立てることと思います。では、さっそくその違いを見ていきましょう。
目次
叱り方の前に、叱ることの本来の目的
あなたはなぜ部下を叱るのでしょうか?上司は部下を叱るのが当たり前だからでしょうか。そうではないですよね。叱り方のテクニックをお伝えする前に、叱ることの本来の目的をおさらいしていきましょう。
「怒る」と「叱る」の違い
あなたは、「怒る」と「叱る」の違いはなんだと思いますか?どちらも共通して「怒り」という感情であるということは経験上ご存知かと思います。
そのため、よくありがちなのが「怒る」と「叱る」を混同してしまっているパターン。感情が共通しているからこそ、ついつい「叱る」ではなく「怒る」の方向へ進んでいってしまいます。
怒りの性質
怒りの目的には次の四つがあります。
- 1)他者を支配する
- 2)主導権争いで優位に立つ
- 3)自己の権利を守る
- 4)正義感を表明する
このうち、「部下を叱る」といった上下関係に該当するのは、1)の「他者を支配する」という目的です。他の三つについては割愛しますが、そもそも「怒り」という感情は、立場が上のものから下のものに流れやすい感情なのです。そして相手を思い通りにしたいという気持ちが隠されています。
上司の立場で見れば、部下があなたの言うことを聞かずに勝手な行動をされることほど困ることはありません。ましてや新しい部下を持つような方になりますと、反発されたり、自らの管理不足を指摘されるのは怖いですよね。
そして、怒ることで自らの優位性を証明し、自分の要求を相手に飲ませるという結果を得ることができるのです。
叱ることの目的は何か
では、叱ることにはどういった目的があるのでしょうか。仕事の場面でイメージしていただくとよくわかりますが、叱ることの目的は、相手の成長を願って相手に意識と行動を変えてもらうことです。怒るに関しては、怒りの感情を表明することが最終目的なのに対し、叱るの目的は、そこから先の目的があります。
つまり、怒るの中に叱るが含まれているわけですね。では、そのことを踏まえたうえで、人前でやってはいけない下手な叱り方を見ていきましょう。
人前でやってはいけない下手な叱り方
怒りの感情は激しいため、ついつい我慢していた分が上乗せされてしまって、言わなくてもいいことを言ってしまったり、攻撃的になってしまったりします。
後で後悔して直そうと思っていても、そんな簡単にできることではないし、そもそも自分の何がまずかったのかがわかっていないことも多いのです。では、一つずつやってはいけない叱り方を見ていきましょう。
自分の機嫌次第で叱る
あなたは、自分の機嫌が悪い時だけ、感情的に叱っていませんか?もしくは反対に機嫌のいい時は注意すべき点を見過ごしてしまってはいませんか?
部下はあなたが機嫌次第で叱るのを察知してしまいます。そうすると部下はこのようなことを感じるようになってしまいます。
- 機嫌が悪いから八つ当たりされたと感じる
- 「今機嫌が悪いから、近づかないようにしよう」「面倒くさい人だ」
- 何について叱られたのか、そしてどうすればいいかがわからない
こういったことを相手が感じてしまうと、上司であるあなたの顔色をうかがってしまい、本来集中すべき業務に集中できません。その時の気分に流されない、ぶれない軸のある上司の方が信頼されるのです。
過去の出来事を引っ張り出す
上司としては、叱るか叱るまいか悩む場面もたくさんあります。それはそれでもちろん良いのですが、その我慢が積もり積もって、ある時一気に出してしまうことをやってはいけません。
「前にもこんなことがあったよね?」「前から言おうと思っていたけど…」このように過去の出来事を引っ張り出してしまうと相手はどう感じてしまうのでしょうか。
- 一気に過去の出来事を引っ張り出されるので、追い詰められてしまう
- 「前から思っていたのに、言ってくれない」と思ってしまう
あなたとしてはたくさん我慢をしてきたとは思うのですが、相手にとっては気づいてなかったりすることもあります。過去の変えられないことを並べて部下を追い詰めることのないよう、今、その時のことについてのみ指摘するようにしましょう。
原因を追求する
「なんでこんなことしたの?」「なぜ言うことを聞かないの?」このように「なぜ?」を連発して過剰に原因を追求することはやってはいけない叱り方です。いくら正しいことでも相手はこう感じてしまう恐れがあります。
- 執拗に追求され、「責められた」と感じてしまう
- どんどん追い詰められて思考が停止してしまう
「なぜ?」ばかりでは人は動きません。部下はただでさえ悪いと感じているのに、追求されてしまうと答えられなくなってしまいます。「なぜ?」だけでなく、「どうすればいいか」も聞いてあげましょう。
人格を否定する
怒りがたまってくると、ついつい心の中で思っている言葉が出てきてしまっていませんか?
「バカじゃないの?」「役に立たないやつだな!」「どうしようもない奴だな!」などのように、してしまったことではなく、その人の存在そのものを否定する言い方は絶対してはいけません。
- 繊細な部下であれば、ショックを受けて心に傷を負ってしまう
- 部下が逆上してケンカになり、修復不能な問題に発展する
昔以上に、言葉の使い方が大切になってきています。傷つく言葉一つで相手の部下だけでなく、全体の雰囲気も悪くしてしまうことも考えられますので、十分気をつけるようにしてください。
以上が、やってはいけない下手なり方です。では、上手な叱り方とはなんでしょうか。叱る目的、怒りの感情、それら今までのことを踏まえて、相手にダメージを与えない、相手が動いてくれるような叱り方をお伝えしていきます。
上手な叱り方のポイント
上手な叱り方とは、やってはいけない下手な叱り方の逆のこと、つまり感情的にならず、叱る目的が明確で、基準がはっきりしているということが基本になります。
何が言いたいのかをハッキリさせる
色々と言いたいことはあるかもしれませんが、一番言いたいこと、つまり「~してほしい」「~をやめてほしい」をハッキリさせましょう。言いたいことを決めておくことで、感情的にならずに伝えることができます。
その時は、なぜそうしてほしいのかの理由をつけてあげると、納得できる形で相手に伝わります。例えば、
「どの会社の鈴木さんかわからないから、メモを残すときは会社や部署名も聞いておいてね」
という風にすれば、どういった部分が至らなかったのかがわかりますよね。
叱る基準をハッキリさせる
「やってはいけない下手な叱り方」の「自分の機嫌で叱らない」でお伝えしましたが、自分の気分次第で叱る・叱らないを決めてしまうと、部下は上司の顔色をうかがってしまうようになります。
これでは、部下が何をしないように・何をするように注意しなければならないかわからなくなるので、双方にとってマイナスになります。ですので、「これを守らなければ注意する」という基準を決めておきましょう。例えば、
「遅れるのであれば、時間までに事前に伝えなければ注意する」
などのようにします。部署内であれば部署内の、チーム内であればチーム内の基準があれば、それを共有しておくとよいでしょう。
相手を傷つけない叱り方
怒りはエネルギーが強いため、往々にして相手にダメージを与えます。ただ、やはり相手を傷つけることは避けたいので、次のような伝え方を意識するようにしてみてください。
二次感情ではなく一次感情で伝える
怒りの感情の裏側には、実は別の感情が隠れていることが多いです。最初に感じた感情を一次感情といい、その一次感情を隠すための感情が二次感情で、怒りは二次感情に当たります。
では、怒りの裏側にどんな感情が隠されているのでしょうか。例えば、営業成績の振るわない部下に対して上司が次のように叱りつけたとします。
「何だこの情けない成績は!こんなのでいいと思っているのか!○○君は何とも思わないのか!」
この時、上司の怒りの感情の裏側には「落胆」という感情が隠されています。この上司は、部下に対してもっとできると思っていたのに、その期待が裏切られて落胆した、その感情を気づかないうちに怒りで隠してしまっているのです。
怒られた方は、怒られてショックを受けているので、「上司は本当は落胆してるんだな…」と気持ちを汲んでもらえることはよほどの限りないでしょう。
ですので、怒鳴って叱る前に、部下に対してどう思っているのか、その素直な気持ちを感じるようにすることが大切です。その伝え方としては、「Iメッセージ」を心掛けるようにします。
Iメッセージで伝える
「I(アイ)メッセージ」とは、「私はこう思った・こう感じた」といった自分の意見のことを指します。それに対して、「あなたはこうだ」といった批評的な言い方のことを「YOUメッセージ」と呼びます。
相手を叱るときは、往々にして次のような「YOUメッセージ」なってしまいがちです。
「あなたはいつも仕事を抱え込んじゃうよね」「あなたのせいでいつも仕事が遅れてしまうんだよ!」
このような言い方になると、相手を批判・非難したり、行動や態度を決めつけてしまうことが多くなります。そうならないためにも、次のような「Iメッセージ」を心掛けてみましょう。
「仕事が遅れていて私は困っているんだよ。周りに迷惑をかけてしまうから、できないときは一言声をかけてほしい。」
こうすることで、相手も責められている感がなくなり、あなたの意見に耳を傾けやすくなります。
叱り方について、サッカーの審判に学ぶこと

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サッカーで反則をすると、ファウルを取られ相手ボールとなります。そのファウルの中でも、相手に対して悪質な行為をすると、審判からイエローカードもしくはレッドカードを出されます。
イエローカードは二枚で退場、レッドカードは一発退場となるため、審判はその行為を繰り返さないよう、強く警告を与えなければなりません。
写真は、イエローカードが出されている場面なのですが、何かお気づきの点はないでしょうか。これは、テレビで審判の方が話していたことですが、イエローカードの出し方には気をつけるポイントがあるそうなのです。
相手の人格ではなく、行為に対してカードを出す
それはカードの位置です。手を真上に挙げてカードを出していますよね?この出し方は、「相手を含む行為全体」に対して警告を与えるという意図が含まれています。
もう少し違う言い方をすると、相手を含む空間全体を意識してカードを出しているそうなのです。
これが例えば、カードを相手の目の前に突き出すような出し方だとどうでしょう。
人前であなたの人格に対して警告を出されているような気がしてイヤですよね。
叱り方についても同じことが言えます。相手の人格を攻撃するのではなく、あくまで相手の行為に対して注意を与える。それはつまり、相手を否定するのではなく、行為を改め、成長を願うことにつながるのです。
「やってはいけない下手な叱り方」と「上手な叱り方」のまとめ
- 叱り方の前に、「叱る」と「怒る」の違いを知り、叱る目的を知ることが大切。
- 人前でやってはいけない下手な叱り方とは、感情的で基準がなく、相手を責めて人格を否定するような叱り方。
- 上手な叱り方とは、何が言いたいのかとその理由がわかり、叱る基準が明確な叱り方。
- 相手を傷つけない叱り方とは、自分の本当の気持ちを理解し、自分の思ったことや感じたことを伝える叱り方。
- サッカーの審判から、人格を否定するのではなく、行為に対して注意を促す叱り方を学ぶことができる。
いかがだったでしょうか。仕事という関係の中で、上司が部下に対してどうしても思い通りにいかず、怒りの感情が湧いてくることがあると思います。
そんな時、今一度、何を言いたいのか、何を改善してほしいのか、その目的を問い直した上で伝えることができれば、やってはいけない下手な叱り方を避けることができます。
部下の成長を願って意識と行動を変えてもらうためにも、上手な叱り方のポイントを押さえて、実践してみてください。
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